四方山話股旅放談
ARPAは竪琴を意味するイタリア語。前脚から背に繋がり、体になじむ緩やかなラインと櫛形の背は、弦を張った楽器のイメージです。削り込んだ座面はお尻をやさしく受け止めます。仕上げは木の質感を活かしたオイルフィニッシュ。
サイズw 495  d 525  h 820  sh 410
素材オーク材
仕様 オイルフィニッシュ
自社工場を中国の大連に設立して、日本だけでなくアジア全体のマーケットを視野に入れた開発を展開しているメーカー。中国、香港、台湾、韓国に、すでに販売拠点やパートナーを持っているブランドです。 野田康彦社長は自社工場のみならず、協力工場探しのためなら単身でどこまでも乗り込む行動派で、「良いものには国籍はいらない」を座右の銘とし、価格と品質のバランスが良い商品開発に取り組んでいます。

http://www.ndstyle.jp

学生の時に学んだ椅子の4つの原型の中にウィンザーチェアがありました。

これまでなかなか挑戦する機会がなかったのですが、「きれいな板座の椅子を作りたい」というきっかけでこのデザインをスタートしています。

板の座面を構造とするウィンザーの考え方は古くから作られている造形とはいえ、繊細な技術や精度が求められます。多くのデザイナーが挑戦し名作も多いし、ハードルが高いと敬遠していたのかもしれません。

今回は伝統的な造形からすこし離れて、スポークとフレームがさらに構造として機能する案を考えてみました。

背から前脚に繋がる脚とスポークの関係は、横から見るとトラスになっているのでより強い構造になることを期待しました。その分、後脚は座面の下に潜り込むようにして、うしろ姿が美しく特徴的なデザインになったと思います。

模型で確認したときにはある程度完成のイメージを固める事ができましたが、やはり現物から得る情報は多いですね。試作を前にしたとき、思惑とは違う部分をたくさん発見してしまい、現場の方には本当に助けてもらいました。

試作打合せの中で大連の現場からは「量産には向かない」という意見も出ましたが、積極的に治具などを見直していただき、精度の高い椅子になったのが嬉しい結果といえます。

全て木の椅子でありながら、造形的にも重さを感じない良い製品が生まれました。
「NDstyle.のウィンザーチェアを作ろう」と新作チェアの模型を提示されたとき、ワークショップの参加メンバーが前のめりに「これやりたい」と惹きつけられたことが印象的でした。ここから企画をスタートさせることになります。

設計を担当する商品課の立場からすると、実現すれば格好いいチェアができるに違いない、と素直に昂ぶる気持ちがある反面、内心は本当に完成するのだろうか、という不安に駆られていました。ウィンザーチェアは伝統的な工法、デザインではあるけれど、自社としては経験値が乏しく、強度のある椅子を実現するには加工や組立に高い精度が求められるため無理なのではないか、とネガティブな思考に囚われて、今まで一度も挑戦してこなかったからです。

NDstyle.には本社商品課と大連工場の設計部があり、基本的には本社製品の設計は本社商品課スタッフが行うことになっています。しかし、この企画を実現させるために製造スタッフと密接に関わっている大連工場の設計部の協力を得ながら設計を進めることになりました。

その後なんとか一次試作が出来上がり、村澤さんと試作チェックを行います。 いつもとおり二脚の試作品を用意しました。そのうち一脚に改良を加えていくのが村澤さんの常套手段。後脚の振り角度や面取り形状など気になるところを加工し直して、さらに整った印象に変わっていきます。二脚を見比べると後脚の印象がまるで違います。

初回試作は形になりましたが、商品化するためには組立や加工の精度をさらに高めていかなくてはなりません。とくに村澤さんがこだわったのが、座板表面の削り出しです。椅子自体の軽さと着座のフィット感を生み出す為、とても重要なポイントです。

村澤さんに示していただいた座の形状はシャープでスッキリした印象だったのですが、試作品では指示通りの形状が作り出せず、ぼんやりとした形をしていました。そもそも座板を削り出す加工は、専用の機械が自社工場にはなく、過去にも試みてはみたもののイメージに合う形状を削り出すことができなくて「できないこと」だと諦めていた加工でした。 ぼんやりとした形の座面を見ながら、村澤さんが「こういう考え方でやってみたらできるんじゃない?」と ラフスケッチを描いてくださり、それを元に製造スタッフに具体的な指示を出していきました。

既存の機械を駆使して何度も試作を繰り返し、刃物形状と軌道の組み合わせを調整し、座の薄さと強度を併せ持つ求めていた形状が出来上がりました。 その後、試作を繰り返した結果、公的試験場での強度試験(繰り返し衝撃試験で12000回)に耐え、完成させることができました。

今までに村澤さんと何度も一緒に開発をしてきましたが、いつもちょっと高めのハードルを見つけて超えることを教えてくださいます。一緒に取り組むことでアイデアが膨らんだり、気づきがあったり、視点を変えることができたり、社内だけでは解決できずにいた問題が解決してきました。今回のウィンザーチェアも村澤さんの提案がなければ、挑戦することはなかったかもしれません。村澤さん、本社スタッフ、大連工場が一体になって開発したことで、実現できたことは大きな糧となったと思います。

挑戦してみることで予想外にできることがわかったり、上手くいかなくても知恵を出し合うことで実現できるのだと改めて感じる開発になりました。