四方山話股旅放談
柔らかな曲線が特徴の成形合板のラウンジチェアー。2次元成形のフォルムの美しさにこだわり、無垢の木製椅子では実現しにくい形状に挑戦しました。パーツを組み立ててゆく要領で、完成した時におおらかな立体となる方法でデザインしています。珍しくネーミングは通し番号にしました。Cuはcurveの頭の2文字。そして番号はこれから増やしてゆくシリーズへの期待を込めています。
サイズ w 630 d740 h 740
素材  ビーチ メジロカバ
仕様  ウレタン塗装
2016年3月に開通の北海道新幹線。青森からトンネルの中をひた走りその出口で最初に見る北海道の景色が、齋藤製作所の敷地です。成形合板を中心とした木工工場ですが、2015年まではオリジナルの開発は行っておらず、縁の下の力持ちメーカーでした。私たちが良くお世話になるホールや劇場の椅子を多く手がけていますが、現場からの多様な要望に応えるための柔軟性を持ち合わせています。今や成形合板は新しい技術ではありませんが、原点を見直して成形合板のスタンダードを作り上げる取り組みが続いています。

http://www.saitoss.net/

 

名作椅子の歴史に必ず登場する成形合板の椅子やスツール。学生時代からのあこがれでした。

日本では専門工場が限られていて、これまで成形合板をテーマに国内で取り組んだ経験がありませんでした。成形合板とは、ご存知のように薄くスライスした板を何枚も重ねて型でプレスして形を作りあげる技術です。通常の木工では彫刻のように切る・削るが基本になるので微調整を前提として少し余白を持ったデザインを心がけていますが、今回は計画した形がそのまま生まれてしまうので緊張しました。

まずは成形合板の基本からレクチャーを受けます。興味で見学するのと、開発のために工場を見るのは全く別の視点が必要なので、ネガティブなこともどんどん聞き出します。どちらかといえば、出来ることより、出来ないことを確認しました。型があれば何でも作れる、という訳ではありません。精度を上げて、完成後にも狂わないようにするためには注意することが多く、
メーカーによる得意分野の違いなども認識できました。頭の中の「名作デザイン」のイメージをまずはリセットです。

最初の提案は、私なりに基本に立ち返ったプランを準備しました。流行りの3次成形の豊かな造形も面白そうでしたが、大事にしたのは「2次元の曲線が3次元の立定的な椅子に変化する」というテーマです。形を一体型で成形してしまうと、樹脂の椅子との差別化もムズカシイ。それなら木製家具の見せ所である「接合」も意識して、幾つかのパーツを組上げることで優雅な形状が生まれるデザインに挑戦しています。

提案の中で、まずスタートをきったのがこのラウンジチェアー。最初の試作は合板を切り抜いた簡易なもので確認です。形と椅子としての座り心地を検証します。座り心地は良好、形状も大きな問題は無さそうです。ただ、こだわりの一つである接合方法に少し難が残りました。そこは現場の工夫に任せて、二次試作では実際に型を作っての生産です。型を作る。それは量産が出来る型を作るという意味。やっぱりダメでしたね??は通用しないので、二次試作で型を作ると聞いたときは私の方が「もう作るんですか?」聞いてしまいました。でも確かに、作りを検証するなら、正式な型でないと意味がありません。ドキドキです。

二次試作の日。完成形は一次試作と同じ形状でそこにありました。当たり前ですけどね。でも私には初めてのことなのでかなり興奮しました。
一次試作では確認できなかったしなりの心地よさや、逆にパーツの加工精度によるねじれが引き起こす接合部の微細な問題など、議論はたくさん。それでも、この方向性に皆が手応えを感じているのがわかります。齊藤製作所の名前を掲げてのデビュー作として、皆に最後の知恵を絞ってもらい、次の最終試作へと進みます。

成形合板の可能性は大きいのですが、私はまだ周回遅れでスタートしたばかり。地道に力をつけて、先行する名作にいつか追いつけるように鍛錬が続きます。

村澤さんに初めてお会いして、少したってからデザインをお願いしたいのでと打合せしてからもうすぐ1年。ラウンジチェアーをはじめいくつかの試作が出来上がりました。

創業以来OEM工場として、成型合板家具を中心に木製品家具を作り続けてきた弊社が自社開発製品を出そうと突然思い立ったのが3年前。
それからいくつかの壁にあたり進んでいなかったのがするすると動き出しました。

第1回目ワークショップとして、これから何が始まるかのプレゼンを社員全員の前でして頂き、その後加工担当者達と成型合板の技術についての検討会をしました。成型合板家具工場と本格的に仕事をするのはほぼ初めてと、出来る・出来ない、やりたい・やりたくないところまで細かく聞き出されていました。

そして第2回目ワークショップ。
四つの案が出され、多数決でそのうち二つを最初に試作することにしました。
製作に入り、試作なので形状変更はあります、試作用の型で作って下さいという指示に対し、成型型は作ったら決まりで変更は作り直しですというやりとりからスタート。ほとんどは切り回しの形状を組み立てて作りましたが、1部材だけは決め打ちして最初から成型型を作りました。

第3回目。2つの試作品が出来上がっていました。ラウンジチェアーはイメージ通り。木部について接続の微調整をしたぐらい。しかしその後もう1練りあるのですが、ほどなく解決しました。

ファブリックは調和のインテリアに使う方の好みを取り入れやすくとの思いでツートンカラーにしてみました。

作ってみて思うのは、最初に工場をくまなく見て、足りないところを補うよりも個性を引き出してくれたこと。

素直な技術から素直なカタチ。でもポイントがつまっています。

その姿勢・手法が素晴らしい。

個性は自分達では忘れかけていたり、当たり前だと思って解らなかったりするからです。

そして作り手も長年の蓄積で十分に応えています。頼もしい限り。

そうして出来たものがどれだけの人に気に入ってもらえるか!
一番の大事なところですが、発売前は期待と不安が入り混じっています。
しかし少なくともこれはお気に入りです!と言えるものを出せることは本当に嬉しく有り難いことです。
股旅放談 齊藤製作所 齊藤衣子