木製家具の可能性を膨らませるノックダウンチェア。
日本では「組み立て=安いもの」という印象が強いですが、歴史的に見てもノックダウンチェアには名作も多い。宮崎椅子製作所で培ってきた椅子作りの取り組みをさらに深める為に挑戦しました。
組み立ての仕組みや金物まで、すべてゼロから開発しています。
サイズ w 450 d 500 h 780 sh 420
素材 ブナ アッシュ ナラ メープル ウォールナット
  ブラックチェリー パープルハート
仕様 蜜ロウワックス仕上げ
 
オリジナル家具を作りたい、と2000年に声をかけていただき始まったワークショップスタイルでの開発。その間、私もデザイナーとして成長させていただきました。
高度な機械技術と丁寧な手作業のバランスが絶妙なモノづくりの体制が魅力のイス専業メーカーです。「自分にはデザインはわかりませんから」が口癖の宮崎勝弘さんですが、いつも提案に自分流の解釈をさりげなくふりかけてくれます。それが夜の呑み会の火種になることも……たまに。

http://www.miyazakiisu.co.jp/

 

ノックダウンソファに続いて、チェアもノックダウンに挑戦。でも、椅子とソファではやはり勝手が違うのですね。
ソファの時は比較的パーツをフラットにしても立体的な表情と座り心地をクッションで実現する事ができましたが、椅子だとそうはいかない。特に今回は「パッケージはよりコンパクトに、軽く、そして椅子としての立体感を失わない。」がテーマでしたので、構造的な挑戦も含めての取り組みとなりました。

まずは、フラットにパッケージすること。
これは比較的最初のイメージで方向性が決定。というか、最初の案以外思いつかない。
サイドフレームを一体化する事はソファの時と同じ考え。それを座のフレームで固める。背は2次元方向の曲げなので、パッケージの際はフラットになる。計算では厚さ80ミリ以下の箱に入るはず!これはいける!!

構造は試作してみなければわかりませんので、まずは挑戦。
椅子の場合は多方向からの力に耐えなければいけないので、あまりパーツが平行・垂直になるより、平面を台形にして、背のパーツで立体的なトラスを作るなどの工夫をしました。
一次試作で意外と強度もクリアー。
おお、これは早くゴールが見えそうです。
ところが… 肝心の座り心地が悪い。いくらコンセプトが面白くても、これではダメ。
座り心地の問題はどうやら背のパーツのデザインで解決しそうですが、これが簡単ではなかったのです。
ここからが長い。一度ミラノでも発表しましたが、どうもしっくりこない。何度も形や縫製方法、張りの具合、組み立てる時の方法を調整しました。
おかげで背の部分がデザインの特徴となり、座り心地も3次元の曲線が体に馴染むきれいな椅子になりました。
背の部分、ほとんど図面では書いていません(笑)。
現場でガムテープや布のつぎはぎで調整して形を整え、たわみが出ないように縫製でも工夫を凝らしてくれたのはすべて現場の知恵です。
sail(帆)という名前も、この背が風を受けて膨らむ帆の印象からつけました。

ノックダウンの金物はソファ同様真鍮の特製ボルト。
背は今の時点(2015年)では革だけですが、帆布にも挑戦予定です。
ノックダウンを感じさせない、軽くてきれいな椅子ができたと自負しています。
sailは帆。後ろからの風を受けて膨らんだ帆がそっと背を支えてくれているような、そんな座り心地の椅子。
私はこの椅子の特徴でもある背張りの試作を担当させていただきました。
この印象的な背張り、初めは見た目も座り心地も全く違ったのです。どういう過程を経てこの背ができたのか、そんな話しを少しだけさせていただこうと思います。

初めてこの椅子の図面を見たとき、横のフレームと座面と背に分かれるんだな… で、背と座の間はどうなっているの? と少し戸惑ってしまった。今まで革を合板に張るタイプの背はあったが、ほぼ革のみが背の大部分をしめる椅子は宮崎椅子にはなかったからです。
本当にできるのかという不安と、早く完成品を見たい!座りたい!という高まりがあったのを覚えています。

一次試作。初期の背は背部材と座面の二辺で革を固定するものでした。
丸みのあるフレームに分厚さを感じない座面、背から座にかけての逆三角状の革張り。全体的にすっきりスリムな印象。
実際に座ってみると、座面は薄いウレタンでも底当たり感はなく、Rもいい具合。
さて、問題の背当たりは… あれ?革感が全くないぞ。
思わず木部担当森本さんに、これはただの飾りだったんですかねぇと聞いてしまったほどの背当たり。
革張りなんだからもちろん革にもたれかかるような背当たりになるんだろう、なんて思っていた自分の甘さを痛感でき、次回への課題も多々残るそんな初回のワークショップでした。

そして二次三次と試作を重ね、なんとか座り心地を良くしようと村澤さん森本さん皆で考えた。
革の固定を四辺にしようそうしたら背が張るかも、背の部材が痛いからウレタンを巻いてみよう、もっと背の張りがほしいなぁフレームの曲りを変えてみよう…
一次試作で学んだ実際にやってみなきゃわからない精神で何度も試作を繰り返し、やっと背が支えられる形になりsailの原型が見えてきた。とりあえず一安心。
だがどうもしっくりこない。背に当たるように革も膨らんでいるのになぜ立体感があまりないのだろう…
この時はまだ背張りのつぎはぎがなく、平らでのっぺりした印象でした。
どうすれば立体感が出るのだろうか… としばらく悩み続けたのですが、ある時事務所へ行くと置いてあった試作の背張りにペンで放射状に線が描かれてあったのです。
この線はなんですか? と聞くと、こういうつぎ方もおもしろいと思うよと近くで作業をしていた方が描いたのだそう。
このつぎ方、私もおもしろいと思う。これで試作してみよう! と作ってみて採用されたのが完成形のこの形。立体感も出て尚且つ背の部材、横フレームとの繋がりもある。良い形に納まったかなとようやく安心することができました。

始めに少しだけと言っていたにもかかわらず、長くなってしまいすみません。
村澤さんも四方山話で言っていたとおり、背の型出しでCADは使いませんでした。図面ではなく実際にできた木部に合わせて型を取り、その型を元に作って直しての繰り返しでできた背です。
本当に最初から最後までやってみなきゃのチャレンジ精神から生まれた椅子でした。
これから帆布での張りもすることになれば、また帆布専用の型がいると思います。でもその時はまた実際にやってみてしっくりくる張り具合を見つけたいと思います。