芦屋にあるこだわりの木製家具を扱う小さなお店がJクオリア。日々の接客の中から感じていた既製品では満足できない椅子の開発をお手伝いさせていただきました。木工家との恊働もこの取り組みが初めて。お店のこだわり、木工家の技、それぞれがいい具合に融合した椅子になったと思います。
サイズ w 500 d 485 h 800 sh 405
素材  ナラ ウォールナット ブラックチェリー
仕様  オイル塗装

「左官定規」の生産では日本一、という木材会社が営む家具ショップ。オーナーは全国を歩き回り、工場と職人に出会い、自分の言葉で伝えることができる製品だけをセレクトするというマニアックなお店です。その心意気があふれすぎて、小さなお店はいつもパンパンで楽しく、つい長居をしてしまいます。

http://www.j-qualia.jp/

 

Jクオリアの松下さんは、イベント事に皆勤賞といえるぐらいフットワークよく私が関わっている出来事に参加してくれます。そんなこともあってか、会うといつもデザイン以外の業界ネタや販売店の悩みや、メーカーの苦情や、マラソンのことや、あれやこれや、長話になります。(笑)

今回の開発も、何度かの長話のなかで私が手がけたショップオリジナルデザインの話になり、松下さんが「そんなこともできるのですね?」と言うものだから、「松下さんもできるよ」と。
それが、忘れた頃に「あの話ですが、、、、」と切り出すのだから怖い。
え?と、開発は大変だよ。
まあまあ、お金もかかるよ。
なにより、工場はどうするの?
と、やんわりブレーキをかけてみたものの、走り出したら止まらないトライアスロン魂はもうゴールしか見えていないようでした。

最大のハードルと思えた製作現場は、すでに外堀が埋まっていました。
大阪で活動している新木さん。工房を拝見するととにかく掃除が行き届いている。(急いで掃除した感じも無く!)道具不足は知恵と工夫で補う姿勢が何より素晴らしい職人さん。こうなればもう、仕方ない。というか、私も面白がりはじめている自分に気がつきます。

今回は継続して何脚も開発する話ではありません。この1脚がすべて。だからこれまでの開発ワークショップとは違う手段で2案の椅子を準備しました。どちらも自信作。
でも、提案当日に少し意地悪をしました。革のケースに入れた2案を見せる前に、どちらか1脚選べと。少しどころの意地悪ではないか(笑)。一応、テーマは伝えます。こちらは「小振りで女性の座り心地を意識したデザイン」、こちらは「モダンで男性的な印象のデザイン」。
目の前で松下さんは苦しんでいます。そんなのあり? と。
はい、普通そんなことはありません。
でも、1脚しか製品化できない最初の対面。顔見て決めるじゃ緊張感が無いよね。
松下夫妻が選んだのは女性向きの方。よし。それではご対面。
「・・・・・・・・・・・・」
松下さんはスケッチを見てしばし固まっていました。
どうやら、随分と自分がイメージしていたものとは違うようです。
選んでいただいたからには私も責任持ちます。
この椅子、絶対良い椅子になりますと。

半信半疑の松下さんの背中を押したのは、新木さんの「簡単そうで難しい」という言葉だったようです。これならワークショップが面白くなりそうだ。
そして、その通りワークショップはいつも問題点の解決が多くて充実したものとなりました。

なにより、松下夫妻が毎回楽しんでいる様子。
ゆっくりとした開発でしたが、終わってみればあっという間でした。私の提案したネーミングは却下されましたが、turuはこれから時間をかけてJクオリアで育つと思います。

追伸
もう1脚の椅子のデザインはどうなったか?
そのままお蔵入りです。

村澤さんと出会って約10年。これまでは村澤さんがデザインされた椅子メーカーの椅子を自分たちが好きという目線で、座り心地や素材感といった要素からお店でお客様に勧めたい椅子をセレクトして扱ってきました。

数年前から、村澤さんに「松下さんのお店もぼちぼちオリジナルの椅子を仕込みましょうよ!」と冗談なのか本気なのか思わせぶりなお誘いをいただいていました。(笑) 嬉しい反面、自分にはひとつのこだわりがありオリジナル椅子を作るなら自分たちのモノ作りの原点である木工房の作り手と一緒にという思いがありました。
しかし、メーカーとのモノ作りが主戦場の家具デザイナーが個人工房の木工家と椅子作りが本当にできるのか? デザイナーとして仕事になるのか?
木工家がそういう製作を受け入れてくれるのか?
などなど、いろいろなハードルが自分の頭の中をぐるぐると回りましたが、今のタイミングならこの木工家とならこの話に乗ってきてくれるかも、と、1年前くらいにやんわりと相談してみました!

私がお付き合いする個人工房の木工家は自分で椅子のデザインをして自分で作るということが基本のスタイルです。いくら有名家具デザイナーがデザインした椅子といえども、そのやりとりも含め積極的に製作に協力してくれるかはかなりの不安がありました。
ドキドキした予想に反して、なんと村澤さんは私のこの提案を快く受け入れてくれました。「で、木工家はどなたですか?」と。
そして今回、私がお願いしたのが新木さんでした。
デザイナーと作り手の初めてのお見合いは、新木さんの工房を村澤さんと一緒に訪れました。 村澤さんは新木さんの椅子作りの姿勢に大変興味を持ってくれたようでした。

後日、新木さんと私で村澤さんの事務所を訪れて、新木さんも村澤さんのデザインと椅子作りの進め方に大変興味を持っていただき、めでたくお見合いが実り、椅子のデザインが得意なデザイナーと椅子作りが大好きな木工家とワクワクな12年目の J クオリアオリジナル椅子の開発が始まったのです!
Jクオリア 松下 哲也
日々の接客の中で、座りやすい椅子が見つからないと言われるのは小柄の女性が多く、そんな方に喜んでもらえる椅子ができたらいいなぁと思っていました。だから、村澤さんのデザインをもとに、女性に合う椅子を作ろうと決まったときはうれしかったです。ワークショップでは、女性が椅子を使うときのイメージや身体の特徴、お客様からお聞きした悩みなどを伝えながら、メンバーただ一人の女性なのをいいことに、「あーしたい、こーしたい」とわがままを言わせていただきました。

食事中や食後のリラックスタイムなど少し座る体勢を変えてもしっかり支えてくれる広い背もたれ、長時間座っていても疲れない厚めのクッションで小柄な方にも合う浅めの座面、横からの出入りも可能な肘掛など、女性の方に喜んでいただける椅子、そして私の欲しかった椅子が完成しました。私のわがままを沢山聞いてくれた、村澤さん、新木さん、椅子張りの平田さん、J之あるじに感謝です。

turuという名前は、肘掛から伸びる前脚のラインのフォルム・日本・女性のイメージから思いつき、イタリアーノな名前との接戦のすえ決まりました。
turuの開発を通じて、椅子を作ることの難しさ、座ることの奥深さを再認識しました。今回学んだこと感じたことを、お客様の椅子選びに生かしていきたいと思います。
Jクオリア 松下 真由美
村澤デザインの椅子を新木工房で製作するとのオファーをいただいたときは「ほんまかいな?」と半信半疑。話はあっという間に現実となって怒濤の開発がスタートしました。
キックオフとなった第1回のミーティングで村澤さんから提示されたデザインを見てフリーズする松下さんが今も忘れられません(笑)。
そこにあった椅子は一見フォールディングチェアにも見えるけれど優雅な曲線で構成された個性的なものでした。初見のときから「シンプルではあるけれどユニークなこの構造をどうやって成立させようか?」と頭の中は模擬試作でフル稼働状態でした。
その中で大きな問題となりそうなポイントが一つあったのです。
後脚を「継がなくてはならない」ということ。
この大きな問題は単体では脆い後脚を、前脚と一体化させる事で十分な強度を確保するという手法でクリアすることが出来ました。当初この脚の継手さえ克服できれば製作は問題ないであろうとの予測をしていたのですがなんのなんの! 実は座の下に隠れた貫の構造に想像以上に苦戦させられました。村澤さんが言っていた「僕は職人さんを困らせるのが楽しみなんだよね?。」との言葉。この言葉の意味を開発終盤で思い知ることになりました(笑)。

「turu」のデザインを象徴するのは肘から前脚への流れるような曲線、そして複雑なカーブを描く後脚。がしかし! その優雅なフォルムを支えているのは、座面の下でひっそりとしかし確実にこの椅子を支える貫の存在があります。
シンクロナイズドスイミングでは水面上では優雅に美しく舞っていてその姿に溜め息がでるほど感動するのですが実は水面下では両足で恐ろしいほどに水を掻いている・・・。
そんな椅子です(笑)。

フォルムもさることながら、その座り心地も個性的なこの椅子をより多くの方に座って感じていただきたいです。
とくに女性の皆さんには何かを感じていただけると思います。
木工家 新木 聡